2匹を何とかバケツに移し換え、水槽から水を抜ききるまでで1時間かかりました。鯉の移動と水抜きだけでです。
鯉にストレスを与えない為にも、休憩しているヒマはありません。
ブツブツ文句を言う母を横目に水槽をお風呂場へ運びました。『臭くならん?ちゃんとキレイに流してよ?』
すまぬがそれどころではないのだよ母上、許して候。
食器を洗うために買ったであろう新品のスポンジで私は隅から隅まで水槽を磨きました。フンの色のコケを片っ端からふき取り、角のパッキンの部分に生えた緑色のコケも出来る限り磨き切りました。
最後に水で流し、ピカピカになった水槽。この中で泳ぐ2匹の美しい姿が目に浮かびました。水槽の水気をふき取り、足早に部屋へ戻りました。
水槽を台に置いてバケツを覗くといるはずの鯉がまたいません。え・・・タマちゃん?
バケツの後ろにはアントニオの時と同じく横たわるタマの姿。私は涙があふれ、力が抜けて座り込みました。
ごめんなさい、私にはもう無理です・・・。
バケツの上にはすのこと小学校の時買ってもらった重り用の図鑑。アントニオに続いてタマまでも死なせてしまった。
私には錦鯉の飼育は出来ないんだと痛感しました。
好きだけでは一緒には暮らせない。自分の無知を心から恥じました。
とりあえず、片付けないと。時間をかけるとキンちゃんまで死んでしまう・・・
急いでバケツに水を汲んで部屋に戻りました。
するとさっき発見した場所とは違う場所にタマちゃんの姿が。頭が真っ白になりました。動いくわけがないのに。
『もしかして・・・』
濡れた床に横たわるタマちゃんにバケツの水をかけると、ひれをバタバタさせ出しました。
『生きちょんや!!!』
ビニールでタマを捕まえて狭いバケツに戻し、洗う前のエアーポンプを急いで投入しました。徐々に泳ぎだすタマちゃん。
たまに横になりながらも体勢を戻し、懸命に泳ぐタマちゃん。
部屋も服もバケツもびしょ濡れでしたが、生きていてくれた事で胸がいっぱいになりました。もういい、生きててくれたらもうそれでいい。
服も床も準備したタオルやぞうきんも全てずぶ濡れでしたが、全く気になりませんでした。
いやいや、メイン水槽に早く2匹を戻さないと!!
お風呂場で水を汲んでは部屋へ戻り、水槽の水位を確かめました。あと一回というところで大きく跳ねた2匹。『このバケツの水も入れてー!!!』といわん絶妙なタイミング。
私は水を溜めることで完全に頭がいっぱいになっていました。バケツの水ごと2匹を移すと次第ににスイーと落ち着いて泳ぎ出す2匹。エアーポンプのフィルターを洗い、水槽の周りの水滴をふき取って蓋をして、長い長い、水槽の洗浄が終わりました。・・・戦場ですね。
水槽はキレイ、部屋ぐちゃぐちゃ。
この最悪のタイミングで母が部屋へ様子を見に来ました。無残な光景を前に怒る母に謝りながらも、私は「やったったぜ!」という達成感からどうしても笑みを溢してしまうのでした。